宝塚歌劇と『ポーの一族』
最近すっかり備忘録となっているこのblog。「それはいけない」とちょっと順番を入れ替えて、最近のネタの中で、ぜひ書いておきたいものを先に記しておきたい。
『ポーの一族』の40年ぶりの新作が掲載された雑誌「flowers」の2016年7月号が異例の重版とか、『ポーの一族 春の夢』のコミックスの発売とか、「萩尾望都SF原画展」の全国巡回とか、最近望都さまの話題がつきないが、ついに『ポーの一族』が宝塚歌劇の舞台になった。
「どんなもんだかなあ……」とはじめは様子見だったが、広報のビジュアルが出たらけっこう話題になっていて、「ちょっと観てみたい」という気になってしまった。しかし、一般チケットの発売日から1週間ほど遅れてしまったら、ネットの方ではすべてソールドアウト! すっかり諦めていたら、友人が劇場窓口に問い合わせてくれて、2階席の後ろから2番目だったが、席をとってくれた。ありがとう! 聞けば、もともとのヅカファンと原作ファンとの相乗効果もあり、主役が人気急上昇中のスターさんでもあり、大変な人気なんだとか。
宝塚は30年前ぐらいか、ずいぶん前一度観に行ったことがあるが、久しぶりに行くと様子を全く覚えていなかった。その間、震災もあり、建物も建て代わり、景色もずいぶん変わったんだろうとは思う。しかし、平日にかかわらず、なんだ?!この人出は! それも年齢層は幅広いがほとんど女性! 駅前から劇場のレストランや売店まで大賑わい。宝塚大劇場は2500人ほど入るらしいが、ものすごい経済効果だなあ。
上演は休憩30分を挟んで3時間だった。原作は原作、宝塚は宝塚でよかったですよ〜 スターさんの美々しさもあるのだろうが、小池修一郎さんの脚本・演出が良いのだろう。パンフレットに「宝塚化とは、70人を超える出演者に役を与えることであり、フィナーレを含め2時間30分に収めること」と書かれている。その上で、宝塚のスター・システムで役を配して、1枚の舞台で場面転換をするとなると、脚本も演出もけっこう制約が多い。原作の改変部分は、それを考えると「なるほど」と納得するものばかりだった。ポーツネル男爵の住まいは岬の一軒家ではなく、ホテルになっている。他にもシーラが一族に加わる儀式(婚約式)や、エドガーが目覚めて始めて少女を襲うシーン(市場)とかも状況を変更して登場人物を増やしている。原作にはない降霊術イベントも、そのひとつかもしれないし、『ホームズの帽子』のオマージュとも思えるし、ストーリーの伏線になるセリフも含まれているが、これはちょっと違和感を覚える。
また、ストーリーは『ポーの一族』をメインに『メリーベルと銀のばら』の前半を加え(後半のユーシスの絡む話はすっとばかす)、狂言回しの伝説探索の4人によって、前後の短編ストーリーの部分を補完しているという、厳しい時間制限の中、なかなか凝った欲張りな内容だった。原作ファンなら舞台にあわせて原作のシーンが頭に巡ってしまうのだが、登場人物がけっこう多いので原作を知らない人は把握できただろうか? そして小池さんは、エドガーが一族に加わる場面で「一族を導く者に」か「大老ポーの後継者に」といったセリフを加えている。『ポーの一族 春の夢』の影響? 『ポーの一族』の頃は、そんなに一族の跡継ぎという考え方はオモテに出てきて無かったかと思うのだが。
あと、ちょっと残念だったのはバンパネラがチリになるところ。老ハンナはそれらしく消えたが、メリーベルと男爵(死に方変更)が銀の玉を撃たれ、シーラ夫人が力尽きてしまうところは、死んだら舞台後ろに連れ去られただけだった。
そうはいっても、原作ファンにとっても満足し、いろいろ語りたい舞台だった。気のせいか、夏に梅田芸術劇場で観た時より、客席の宝塚の法則(スターさんが出てきたら、息をあわせて拍手や手拍子をするなどのお約束な一体感)はそれほどキョーレツには感じられなかった。原作ファンで、宝塚歌劇だからとそんなにのめり込んでいない人も多かったのかも。
そして、自分的お土産は、パンフレットと薔薇の香りの紅茶。紅茶はメイド・イン・ルピシアで、望都さまのイラスト入りの缶に入っている。
この宝塚大劇場での花組公演は、1月1日〜2月5日でもうすぐ終了するが、次に東京宝塚劇場での公演が2月16日〜3月25日に控えている。雑誌「flowers」の3月号には望都さまと演出の小池さん、花組トップの明日海りおさんのゴージャス鼎談も掲載されているし、タイトルとかはまだだけど原作の新シリーズももうすぐ始まる。まだまだ話題を振りまいてくれそうな望都さまだ。
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